きつねは、安房作品では、なんだかすごく多く登場するような印象があるのですが、意外に少ないことに驚きます。
単行本未収録済みは、14作品、未収録作品もあわせると、22作品となります。
安房さんには「きつねと私」(単行本未収録)というエッセイがあり、きつねという動物に、ほかの動物とはちがう、一種神秘的な感じをいだくようになった、どのきつねも無邪気でかわいらしくて、どこかしら悲しげだった、と書いています。
影絵の悲しげなきつね、宮沢賢治の「雪渡り」のきつね、お母様の銀ぎつねのえりまき眺めながら、いたましい様な思いにかられた事。
「私の作品のきつね達は、(きつねだけでなく、熊でも鹿でもうさぎでも)常に「追われる」動物なのである。そして、追われて狩られる動物と、動物を狩る事で生きてゆく人間との悲しいかかわりあいを描く事が多いのである。」と書く安房さん。
そんな安房直子さんのいちばんの代表作は、やはり「きつねの窓」でしょう。
きつねは、失われたものを映し出すことができるふしぎな指の代償に、「ぼく」の鉄砲をねだります。
主人公の「ぼく」は、なぜひとりぽっちなのか、「ぼく」の家が焼けたのはなぜか。
「きつねの窓」発表当時は、まだまだ第二次世界大戦の爪痕が生々しさを失わなかった頃です。
「ぼく」の家は、戦火で焼け、身内も戦争で失った。そんな時代背景を無視できないと思いつつも、現代の読者には、
そんな当時の肌で感じることのできた記憶を、共有しづらくなっているともいえます。
そして、やっぱり「ひとりぽっち」のきつね、コンタロウが主人公の「コンタロウのひみつのでんわ」では、
もうひとりの主人公であるふとん屋のおじいさんも、ひとりぽっちです。
ひとりぽっちとひとりぽっちが寄り添い、そっとささやかに温かみをもとめるお話は、
どこか、拭いがたい、しんとしたさみしさにいろどられており、だからこそ一層、わすれがたいお話です。
そんなどこかさみしいお話とはうってかわって、ユーモラスでかわいらしい、
「きつねのゆうしょくかい」という作品もあります。
人間をお茶会に招きたくて、お客を招いて、お茶会は大成功なのだけど、
じつはそのお客はみんな、きつねのしっぽをもっていた、というお話です。
一方、「きつね山の赤い花」で、きつねの子は、
とくに化けもせず、きつねの姿のまま、
人間の女の子とままごと遊びをします。
「てんぐのくれためんこ」のたけしも、
きつねの子たちがめんこ遊びをしているところに行き会い、
その仲間に混ぜてもらいます。
「べにばらホテルのお客」のホテル経営の片腕として
北村治に尽くすきつねも、とくに人間に化ける必要はなく、
きつねの姿のままで、治と結ばれます。
きつねが人間と交流するために、人間の姿に化ける話は、
ほんの初期の頃だけで、
しだいに、人間と動物がおおらかにやりとりする、
そんな風に、作風が変化していっているようです。
そして、どのきつねも、小賢しく人を化かすということはあまりなくて、
「べにばらホテルのお客」のきつねなどは、一途な上、有能です。
(「きつね山の赤い花」のきつねの母さんは、ゆみ子の家のお店であるおとうふ屋から
油揚げをくすねてきてはいるようですが、その程度のかわいいものです。)
「わるくちのすきな女の子」にでてくるきつねは、
女の子に馬鹿にされるくらい、気が弱くて、
そして、気持ちのやさしい2匹です。
気の弱い茶色いきつねは、やさしい白いきつねと結婚します。
わるくち鳥となった女の子は、イライラして、
「のろまのだんなさんに ばかのおくさん おお、たいへんだ」
と、歌いますが、
ふくろうは、
「底抜けのおひとよしの上には、幸運の星がついているんだよ。」
と、いいます。
この言葉の、含蓄の深さ。
安房さんの信念のようなものが感じられます。
脇役のきつねを見て行くと、
雪の吹雪の中で、きつねうどんの屋台をひいている
きつねの親子が登場する「冬吉と熊のものがたり」があります。
この、きつねうどんのおいしそうなこと!!
おいしそうといえば、「てんぐのくれためんこ」のきつねたちが食べている、てんぷらうどんとぶどうジュースも負けてはいません。
「だんまりうさぎと大きなかぼちゃ」の、だんまりうさぎの誕生日パーティには、「きつねのおにいさん」も招待されていますが、きつねはうさぎ、食べてしまいますよね。
ちょっと、心配になってしまいます・・・。
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タイトル |
登場人(動)物 |
発表年 |
主な収録作品集 |
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主人公 |
きつねのゆうしょくかい |
きつねのお父さん・きつねのむすめ |
1969 |
安房直子コレクション |
3 |
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きつねの窓 |
染物屋 |
1971 |
安房直子コレクション |
1 |
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きつねの灰皿 |
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1982 |
単行本未収録 |
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こぎつねコンタロウ |
1982 |
単行本未収録 |
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コンタロウのひみつのでんわ |
1982 |
コンタロウのひみつのでんわ |
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秋書房 |
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きつね山の赤い花 |
子ぎつね、かあさんぎつね |
安房直子コレクション |
3 |
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準主人公 |
雪の中の青い炎 |
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1979 |
単行本未収録 |
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てんぐのくれためんこ |
きつねたち |
1983 |
安房直子コレクション |
3 |
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小さな緑のかさ |
きつねたち |
1985 |
単行本未収録 |
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べにばらホテルのお客 |
ホテル経営の片腕のきつね |
1987 |
安房直子コレクション |
5 |
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脇役 |
緑のスキップ |
きつねの奥さん |
1972 |
安房直子コレクション |
7 |
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ねずみの焼いたおせんべい |
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1973 |
単行本未収録 |
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銀色の落としもの |
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1973 |
単行本未収録 |
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ぶどうの風 |
きつねの奥さん |
1973 |
単行本未収録 |
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冬吉と熊のものがたり |
きつねうどんの屋台をひいている |
冬吉と熊のものがたり |
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わるくちのすきな女の子 |
茶色いきつね・白いきつね |
1989 |
わるくちのすきな女の子 |
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すずをならすのはだれ |
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1990 |
すずをならすのはだれ |
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あざみ野 |
皮の長ぐつをねだるきつね |
1975 |
銀のくじゃく |
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偕成社文庫 |
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天の鹿 |
ぴかぴか光る狐の目玉 |
1978 |
安房直子コレクション |
5 |
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だんまりうさぎと大きなかぼちゃ |
きつねのおにいさん |
1980 |
だんまりうさぎとおしゃべりうさぎ |
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ふしぎなあしおと |
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1982 |
単行本未収録 |
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花豆の煮えるまで |
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1991 |
安房直子コレクション |
7 |