鹿は、主役級の作品「天の鹿」のインパクト、そして、人気の高い「あるジャム屋の話」があるために、なんだか、すごく、たくさんお話があるような印象がありますが、登場するのは、わずか、8作品、と意外に少ないのです。しかし、「ふしぎなあしおと」以外、どれも、単行本収録済み作品であるという点で、安房さんが、鹿という動物を、特別に思っていたふしがうかがえます。
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タイトル |
登場人(動)物 |
発表年 |
主な収録作品集 |
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主人公 |
天の鹿 |
牡鹿 |
1978 |
安房直子コレクション |
5 |
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準主人公 |
野ばらの帽子 |
鹿の母子 |
1971 |
白いおうむの森 |
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偕成社文庫 |
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あるジャム屋の話 |
鹿の娘・父鹿 |
1985 |
安房直子コレクション |
5 |
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脇役 |
あざみ野 |
長ぐつにする鹿の皮 |
1975 |
銀のくじゃく |
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偕成社文庫 |
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ふしぎなあしおと |
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1983 |
単行本未収録 |
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べにばらホテルのお客 |
風の娘の婚約者の鹿・かもしかの娘 |
1987 |
安房直子コレクション |
5 |
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すずをならすのはだれ |
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1990 |
すずをならすのはだれ |
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ゆめみるトランク |
鹿皮のかばん希望の鹿 |
1991 |
ゆめみるトランク |
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風になって |
鹿の結婚式 |
1991 |
安房直子コレクション |
7 |
「天の鹿」「あるジャム屋の話」「野ばらの帽子」すべて、結婚・婚姻がテーマの異類婚姻譚、ロマンティックな作品ばかりです。
「風になって」にも、鹿が結婚式を行う神聖な場面が出て来ます。
魂の相手と添うことができた半面、人間世界の肉親との永遠の別離を余儀なくされる「天の鹿」は、
かなしみにいろどられた作品でもあります。
「鹿の市」のどこか悲しげな賑わい、その市のなんともいえない魅力、この作品も、エッセイ「きつねと私」に書いていたように、
「狩るものと狩られる者の悲しいかかわりあい」を描いた作品であるのです。
雌の鹿の鳴き声を模した「鹿笛」でおびきだされて狩られる牡鹿。恋の気持そのままに殺された鹿が、そのキモを食べた娘を追い求め、そして結ばれるのは、ある意味、必然であるのかもしれません。
「天の鹿」の7年後に書かれた「あるジャム屋の話」は、
同じ鹿と人間のお話でありながら、安心して読めるハッピーエンドです。
鹿の娘は、さまざまの花を食べ、さまざまの泉の水を飲み、
さまざまの呪文をとなえて、となえ終わった月夜に、人間の姿となります。
同じように、「野ばらの帽子」の鹿の娘は、
魔法をつかえる母鹿に、人間の姿にしてもらうのですが、
「あるジャム屋の話」と違い、娘の恋人は、娘が鹿であることは知りません。
母鹿の連れ合いは、人間に標本にされ、
村の学校の理科室に飾られています。
娘の鹿は、父に会いに通ううちに、
本当なら敵である猟師の男に惹かれるようになります。
「野ばらの帽子」の親子の鹿は、
「鹿は鹿でも、白雪とよばれる高貴な生まれ」なのだといいます。
「あるジャム屋の話」のなかでは、安房さんは
「鹿の知恵は神の知恵」という架空のことわざを登場させます。
そんな神聖な獣である鹿たちとは異色なのが、
「ゆめみるトランク」に登場する鹿です。
彼は、死して何も残さないではいたくない、と、
自分の死後、鹿の皮のカバンをつくってくれ、と、
かばん職人の一郎さんにつめよります。
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タイトル |
登場人(動)物 |
発表年 |
主な収録作品集 |
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主人公 |
かみきりむしのおみせ |
かみきりむし |
1968 |
単行本未収録 |
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準主人公 |
黄色いちょうちょ |
蝶 |
1972 |
単行本未収録 |
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緑の蝶 |
緑の蝶 |
1973 |
銀のくじゃく |
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偕成社文庫 |
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かたつむりのピアノ |
かたつむり |
1973 |
単行本未収録 |
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ほたる |
ほたる |
1974 |
だれにも見えないベランダ |
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講談社文庫 |
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夏の夢 |
せみ |
1977 |
だれにも見えないベランダ |
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講談社文庫 |
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沼のほとり |
ほたる |
1980 |
南の島の魔法の話 |
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講談社文庫 |
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野の果ての国 |
蜂 |
1980 |
安房直子コレクション |
6 |
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脇役 |
ゆうぐれ山の山男 |
ハエ・カ・ブヨ |
1970 |
単行本未収録 |
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しゃっくりがとまらない |
蝶 |
1974 |
単行本未収録 |
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海へ |
蝶 |
1976 |
単行本未収録 |
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おしゃべりなカーテン |
蝶 |
1987 |
おしゃべりなカーテン |
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丘の上の小さな家 |
クモ |
1989 |
安房直子コレクション |
4 |
むしも、それなりに、登場してきます。
「緑の蝶」をはじめ、ちょうちょうが、いちばん多いようです。
また、神秘的なほたるも、2作品に顔をだします。
「夏の夢」のせみも、「耳鳴りを貸す」という不思議な出だしの、
実に印象的なおはなしですね。
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タイトル |
登場人(動)物 |
発表年 |
主な収録作品集 |
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主人公 |
もぐらのほった深い井戸 |
もぐらのモグ吉 |
1967 |
安房直子コレクション |
7 |
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準主人公 |
くるみの木の下の家 |
もぐら |
1972 |
単行本未収録 |
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野いちごつみに |
もぐら |
1973 |
単行本未収録 |
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しゃっくりがとまらない |
もぐらの一家 |
1974 |
単行本未収録 |
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だんまりうさぎとおほしさま |
もぐら |
1979 |
だんまりうさぎとおほしさま |
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だんまりうさぎとペンペン草 |
もぐら |
1981 |
単行本未収録 |
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脇役 |
きいろいマント |
もぐらのおばさん |
1978 |
きいろいマント |
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教育研究社 |
もぐらは、イメージ・シンボル事典(大修館書店)によると、「盲目」だけでなく、「貪欲」を表す場合も。中世のイコンでは、「貪欲」Avarice には、もぐらがのっている形で表されます。まさに「もぐらのほった深い井戸」モグ吉そのままですね。
「もぐらのほった深い井戸」の一作が、深い印象を残していますが、もぐらは、
単行本未収録作品にも、動物の主人公への助言役として、
ちょくちょく顔を出していることがわかります。
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タイトル |
登場人(動)物 |
発表年 |
主な収録作品集 |
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主人公 |
オリオン写真館 |
さる |
1968 |
安房直子コレクション |
2 |
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黄色いちょうちょ |
さる |
1972 |
単行本未収録 |
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黄ばらのトゲ |
うし |
単行本未収録 |
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あきのはまべ |
カニの親子 |
1990 |
単行本未収録 |
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準主人公 |
エプロンが空をとんだ |
いのしし |
1970 |
単行本未収録 |
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だれも知らない時間 |
カメ |
1971 |
安房直子コレクション |
1 |
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かいのでんわ |
たこ |
1972 |
単行本未収録 |
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オムレツごちそうさま |
さる |
1972 |
単行本未収録 |
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ライラック通りのぼうし屋 |
ヒツジ |
1973 |
安房直子コレクション |
4 |
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海からの電話 |
1976 |
だれにも見えないベランダ |
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講談社文庫 |
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日暮れの海の物語 |
カメ |
1976 |
安房直子コレクション |
6 |
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奥さまの耳飾り |
くじら |
1977 |
安房直子コレクション |
6 |
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やまのくりごはん |
りす |
1980 |
単行本未収録 |
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山のローラースケート |
いたち |
1981 |
安房直子コレクション |
3 |
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小さなつづら |
さる |
1982 |
安房直子コレクション |
3 |
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ふろふき大根のゆうべ |
いのしし |
1983 |
安房直子コレクション |
3 |
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脇役 |
雪の中の映画館 |
りすのおくさん |
1969 |
単行本未収録 |
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山男のたてごとⅡ |
こうもり・りす・さる・いのしし |
1970 |
単行本未収録 |
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大男のうきぶくろ |
くじら |
1972 |
単行本未収録 |
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くるみの木の下の家 |
りす |
1972 |
単行本未収録 |
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お正月さんこんにちは |
おさる |
1973 |
単行本未収録 |
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ほそいつり橋 |
さる・魚 |
1973 |
単行本未収録 |
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たぬきの電話は森の1番 |
りす |
1973 |
単行本未収録 |
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走れみどりのそり |
ぬいぐるみのぶた |
1978 |
単行本未収録 |
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秘密の発電所 |
カエル |
1980 |
安房直子コレクション |
2 |
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だんまりうさぎと大きなかぼちゃ |
りす |
1980 |
だんまりうさぎとおしゃべりうさぎ |
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マントをきたくまのこ |
りす |
1981 |
単行本未収録 |
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ふしぎなあしおと |
さる・りす |
1982 |
単行本未収録 |
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はるはもうすぐ |
りす |
1983 |
単行本未収録 |
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おしゃべりなカラマツ |
りす |
1985 |
単行本未収録 |
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三日月村の黒猫 |
ボタンづくりをするりす |
1986 |
安房直子コレクション |
4 |
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べにばらホテルのお客 |
いのしし・りすの一家・いたちの夫婦 |
1987 |
安房直子コレクション |
5 |
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わるくちのすきな女の子 |
くじら |
1989 |
わるくちのすきな女の子 |
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すずをならすのはだれ |
りす・いのしし |
1990 |
すずをならすのはだれ |
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花豆の煮えるまで |
いたち |
1991 |
安房直子コレクション |
7 |
それ一作で、深い印象を残している作品がたくさんあります。
「ライラック通りのぼうし屋」のヒツジ、
「三日月村の黒猫」のボタンづくりをするりすたち、
「だれも知らない時間」「日暮れの海の物語」のカメ、
「奥さまの耳飾り」のくじら・・・。
「風のローラースケート」のいたちや、
「ふろふき大根のゆうべ」のいのししも、
安房さんの代表作のひとつです。
安房さんの作品をめぐる動物のご紹介は、以上になります。
少しでも、安房さんの作品を皆さんが読み返すきっかけとなりますように。