ゆきひらなべは、おなべでありながら、食器でもある、多機能な存在ですね。
安房直子さんの作品には、お鍋や食器がたくさん登場します。おなべは、「コロッケが五十二」や「ふろふき大根のゆうべ」「天の鹿」に出てくる、大きくて黒い鉄のお鍋。「木の葉の魚」には、入れた木の葉が魚料理となるふしぎなおなべが出てきます。「三日月村の黒猫」「火影の夢」「鳥にさらわれた娘」にもおなべが登場します。
食器なら、「鶴の家」の青いふしぎなお皿や、「グラタンおばあさんとまほうのアヒル」の黄色いアヒルの模様のあるグラタン皿、それから、春、秋で、お料理を紹介予定の「ききょうの娘」のふたの内側にすすきの模様のある赤い漆塗のおわん、「白樺のテーブル」のマジョリカ焼きの茶器、「きつねのゆうしょくかい」のコーヒーセット。「ハンカチの上の花畑」のつぼも、酒器として、お仲間にいれてもいいかもしれません。おままごとの食器としては、「きつね山の赤い花」の緑の木の葉の食器も可愛らしいです。
こうしてみると、魔法のかかったなべや食器が自動的にお料理を作ってくれる作品もありますが、「ゆきひらの話」は、ゆきひらが実際にお料理を作り、その本文がそのまま、りんごのあま煮のおいしそうなレシピとなっている箇所も魅力です。
「ゆきひらの話」の主人公は、ひとり暮しのおばあさん。安房直子さんの作品には、ひとり暮しのおばあさん、ひとりぽっちのおばあさん、も、よく登場します。「遠い野ばらの村」をはじめ、「小さい金の針」、「秋の音」、「みどりのはしご」、「ふしぎなシャベル」「黄色いスカーフ」etc.etc.…。「グラタンおばあさんとまほうのアヒル」もそうですね。こんな風な、ひとりぽっちのおばあさんというモチーフに出会うと、なんだか、その淋しさ、孤独の深さがしんと響いてきて、心がきゅっとなるような心地になります。
風邪をひいて、ひとり心細い思いで寝込んでいたおばあさんにとって、「ものを言う」ゆきひらの存在はどんなにか心強く、ひんやりおいしいりんごのあま煮は、どんなにか慈しみに満ちた口当たりだったことでしょう。心細い気持ちでいたおばあさんと、戸棚でわすれられていたおなべ。ふたつの波長が重なり合ったからこそ、おばあさんには、その「声」を、聴くことができたのでしょう。
それにしても、アイダミホコさんお料理のりんごのあま煮、実に美しく、おいしそう!! ねっとりした舌触りが思い浮かび、口中に唾がわきます。まっしろな敷物が、雪の中のゆきひらなべを思わせて、とても素敵です。
ゆきひらなべの由来についてなど、
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