安房直子的世界

童話作家、安房直子さんをめぐるエッセイを書いていきます。

ねこー安房直子の動物手帖⑥

安房作品におけるねこ。ねこは、主人公の相手役、ナビゲーター役となることが多く、逆に、主人公となることは少ないようです。

単行本収録済み作品は、15作品、未収録作品も含めると、22作品となります。

 

ねこは、人間の主人公の良き相棒であったり、異界への導き手だったりします。

一番の印象的な登場をする猫は、

やはり、「三日月村の黒猫」に出てくる、片目の黒猫でしょうか。

片目の黒猫は、倒産寸前の山本洋服店を助け、

さちおを三日月村へと送り出します。

ラストに、朝露のように透明になるようさちおが磨き上げたボタンを、

失くした目の代わりに、ぴたりと嵌め込むあたりも、印象的です。

この三日月村の黒猫と双璧の黒猫が、

「ひぐれのお客」に登場する、エメラルドのような緑色の目をもち、

マントをまとった黒猫です。

このお客は、赤は赤でも、薪ストーブの色をもつ赤の裏地を探しに来たのです。

どちらの黒猫も、洋服関係のお店のお話であることが面白いですね。

黒猫はこの2匹と、「ふしぎな文房具屋」のミミ、

未収録作品「冬の話三つ」「小さな小さなミシン」に登場、

同様に多いのは「まだらのねこ」で、「春の窓」のはちみつ色の目のまだらねこをはじめ、4作品4匹登場します。

まだら、とは、おそらく、茶と黒などが混じった毛の「サビ猫」のことだと思います。

白猫は、「白いおうむの森」のミーや、「猫の結婚式」のチイ子がそうですね。

 

 

「猫の結婚式」には、ギンとチイ子夫妻が

新居を構える予定だという猫の町、

「ふしぎなシャベル」には、猫の村という、

猫だけで集まって暮らしている特別な場所がでてきます。

猫は、通常、人間に飼われているか、

人間世界の傍らで野良ネコとして生きて行くことが普通です。

人間から完全に独立した猫の町・村を、

安房さんは殊更につくりだしてあげたのでしょうね。

 

 

ねこが主人公である作品は、たったふたつ、

いもとようこさんの絵が愛らしい絵本「まほうのあめだめ」

そして、単行本未収録作品「花びら通りの猫」です。

「花びら通りの猫」は、未収録の花びら通りシリーズの1作で、

単行本未収録であるのが、もったいないような作品です。

もっとも、奥さんの役割が、料理と掃除だけ、といわんばかりの

作品の古さがあり、現代のこどもたちに読ませるにはどうなの?と

ジェンダーの点で疑問に思わなくもありません。

ただ、灰色の猫の、コックさんへの苦い失恋のお話は、

ふわりとふしぎな雲でできたばらいろのエプロンとともに、心に残り続けます。

機会がありましたら、こちらもぜひ、読んでみてください。

月刊『MOE』の1981年1月号に掲載の作品です。

 

「ねこじゃらしの野原」というタイトルがふたつありますが、

1980年、『詩とメルヘン』掲載の作品は、

1984年発表のとうふ屋さんのお話シリーズとは

全く別物です。

どちらも、ねこじゃらしの野原が舞台ですが、

1980年『詩とメルヘン』掲載のお話は、おばあさんが、お客のために、近所の農家に買出しに出かける途中、ふしぎな野良猫に出会い、

冬の季節には珍しい、すみれといちごを分けてもらうお話です。

 

対して、「安房直子コレクション」3収録の、とうふ屋さんシリーズは、

昔飼っていた猫のタロウが、「ねこじゃらしとうふ店」を構えていた、

というお話です。

 

安房さんは、こんなにもたくさんの猫の登場するお話を書きましたが、

不思議なことに、犬は、全くと言ってよいほど、出て来ません。

たった1作、「やさしいたんぽぽ」のラストに、

「すてられたいぬやねこ」と、一か所だけ登場するのみです。

自由気ままで、どこかわがまま勝手なところが憎めない猫にくらべ、

人間に忠実で従順な犬に、安房さんは面白みを感じなかったのかもしれません。

 

ねこ

 

タイトル

登場人(動)物

発表年

主な収録作品集

 

 

主人公

まほうのあめだま

チロー

1984

まほうのあめだま

 

金の星社

 

花びら通りの猫

アーモンド型の目、灰色の長い毛

1989

単行本未収録

 

 

準主人公

白いおうむの森

ミー(白)

1973

白いおうむの森

 

偕成社文庫

 

だれにも見えないベランダ

緑色の目の白い猫

1977

安房直子コレクション

2

偕成社

 

ふしぎなシャベル

麦わら帽子をかぶった猫

1978

安房直子コレクション

2

偕成社

 

ひぐれのお客

緑色の目の黒猫

1980

安房直子コレクション

2

偕成社

 

ねこじゃらしの野原

金の目の茶色い大猫

1980

単行本未収録・講談社版とは別

 

 

 

おばあさんとネコとポットカバー

 

1981

単行本未収録

 

 

 

猫の結婚式

ギン(何色かわからない)、チイ子(白)

1981

安房直子コレクション

2

偕成社

 

冬の話三つ②ストーブを買った日

黒猫

1982

単行本未収録

 

 

 

冬の話三つ③手紙

 

1982

単行本未収録

 

 

 

ねこじゃらしの野原

タロウ(金の目の茶猫)

1984

安房直子コレクション

3

偕成社

 

春の窓

はちみつ色の目のまだらの猫

1986

春の窓

 

講談社

 

三日月村の黒猫

片目の黒猫

1986

安房直子コレクション

4

偕成社

 

猫の家のカーテン

まだらのねこ

1987

おしゃべりなカーテン

 

講談社

 

丘の上の小さな家

黄色い目のまだらの猫

1989

安房直子コレクション

4

偕成社

 

小さな小さなミシン

黒猫、月の光がいたずら

1989

単行本未収録

 

 

 

ゆめみるトランク

まだらのねこ

1991

ゆめみるトランク

 

講談社

脇役

コロッケが五十二

茶色のねこ

1969

まほうをかけられた舌

 

フォア文庫

 

小さいティーカップの話

 

1976

単行本未収録

 

 

 

ふしぎな文房具屋

黒猫のミミ

1982

安房直子コレクション

2

偕成社

 

やさしいたんぽぽ

すてられたねこ

1985

やさしいたんぽぽ

 

小峰書店