安房作品におけるねこ。ねこは、主人公の相手役、ナビゲーター役となることが多く、逆に、主人公となることは少ないようです。
単行本収録済み作品は、15作品、未収録作品も含めると、22作品となります。
ねこは、人間の主人公の良き相棒であったり、異界への導き手だったりします。
一番の印象的な登場をする猫は、
やはり、「三日月村の黒猫」に出てくる、片目の黒猫でしょうか。
片目の黒猫は、倒産寸前の山本洋服店を助け、
さちおを三日月村へと送り出します。
ラストに、朝露のように透明になるようさちおが磨き上げたボタンを、
失くした目の代わりに、ぴたりと嵌め込むあたりも、印象的です。
この三日月村の黒猫と双璧の黒猫が、
「ひぐれのお客」に登場する、エメラルドのような緑色の目をもち、
マントをまとった黒猫です。
このお客は、赤は赤でも、薪ストーブの色をもつ赤の裏地を探しに来たのです。
どちらの黒猫も、洋服関係のお店のお話であることが面白いですね。
黒猫はこの2匹と、「ふしぎな文房具屋」のミミ、
未収録作品「冬の話三つ」「小さな小さなミシン」に登場、
同様に多いのは「まだらのねこ」で、「春の窓」のはちみつ色の目のまだらねこをはじめ、4作品4匹登場します。
まだら、とは、おそらく、茶と黒などが混じった毛の「サビ猫」のことだと思います。
白猫は、「白いおうむの森」のミーや、「猫の結婚式」のチイ子がそうですね。
「猫の結婚式」には、ギンとチイ子夫妻が
新居を構える予定だという猫の町、
「ふしぎなシャベル」には、猫の村という、
猫だけで集まって暮らしている特別な場所がでてきます。
猫は、通常、人間に飼われているか、
人間世界の傍らで野良ネコとして生きて行くことが普通です。
人間から完全に独立した猫の町・村を、
安房さんは殊更につくりだしてあげたのでしょうね。
ねこが主人公である作品は、たったふたつ、
いもとようこさんの絵が愛らしい絵本「まほうのあめだめ」
そして、単行本未収録作品「花びら通りの猫」です。
「花びら通りの猫」は、未収録の花びら通りシリーズの1作で、
単行本未収録であるのが、もったいないような作品です。
もっとも、奥さんの役割が、料理と掃除だけ、といわんばかりの
作品の古さがあり、現代のこどもたちに読ませるにはどうなの?と
ジェンダーの点で疑問に思わなくもありません。
ただ、灰色の猫の、コックさんへの苦い失恋のお話は、
ふわりとふしぎな雲でできたばらいろのエプロンとともに、心に残り続けます。
機会がありましたら、こちらもぜひ、読んでみてください。
月刊『MOE』の1981年1月号に掲載の作品です。
「ねこじゃらしの野原」というタイトルがふたつありますが、
1980年、『詩とメルヘン』掲載の作品は、
1984年発表のとうふ屋さんのお話シリーズとは
全く別物です。
どちらも、ねこじゃらしの野原が舞台ですが、
1980年『詩とメルヘン』掲載のお話は、おばあさんが、お客のために、近所の農家に買出しに出かける途中、ふしぎな野良猫に出会い、
冬の季節には珍しい、すみれといちごを分けてもらうお話です。
対して、「安房直子コレクション」3収録の、とうふ屋さんシリーズは、
昔飼っていた猫のタロウが、「ねこじゃらしとうふ店」を構えていた、
というお話です。
安房さんは、こんなにもたくさんの猫の登場するお話を書きましたが、
不思議なことに、犬は、全くと言ってよいほど、出て来ません。
たった1作、「やさしいたんぽぽ」のラストに、
「すてられたいぬやねこ」と、一か所だけ登場するのみです。
自由気ままで、どこかわがまま勝手なところが憎めない猫にくらべ、
人間に忠実で従順な犬に、安房さんは面白みを感じなかったのかもしれません。
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タイトル |
登場人(動)物 |
発表年 |
主な収録作品集 |
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主人公 |
まほうのあめだま |
チロー |
まほうのあめだま |
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花びら通りの猫 |
アーモンド型の目、灰色の長い毛 |
1989 |
単行本未収録 |
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準主人公 |
白いおうむの森 |
ミー(白) |
1973 |
白いおうむの森 |
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偕成社文庫 |
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だれにも見えないベランダ |
緑色の目の白い猫 |
1977 |
安房直子コレクション |
2 |
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ふしぎなシャベル |
麦わら帽子をかぶった猫 |
1978 |
安房直子コレクション |
2 |
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ひぐれのお客 |
緑色の目の黒猫 |
1980 |
安房直子コレクション |
2 |
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ねこじゃらしの野原 |
金の目の茶色い大猫 |
1980 |
単行本未収録・講談社版とは別 |
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おばあさんとネコとポットカバー |
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1981 |
単行本未収録 |
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猫の結婚式 |
ギン(何色かわからない)、チイ子(白) |
1981 |
安房直子コレクション |
2 |
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冬の話三つ②ストーブを買った日 |
黒猫 |
1982 |
単行本未収録 |
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冬の話三つ③手紙 |
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1982 |
単行本未収録 |
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ねこじゃらしの野原 |
タロウ(金の目の茶猫) |
安房直子コレクション |
3 |
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春の窓 |
はちみつ色の目のまだらの猫 |
1986 |
春の窓 |
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三日月村の黒猫 |
片目の黒猫 |
1986 |
安房直子コレクション |
4 |
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猫の家のカーテン |
まだらのねこ |
1987 |
おしゃべりなカーテン |
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丘の上の小さな家 |
黄色い目のまだらの猫 |
1989 |
安房直子コレクション |
4 |
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小さな小さなミシン |
黒猫、月の光がいたずら |
1989 |
単行本未収録 |
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ゆめみるトランク |
まだらのねこ |
1991 |
ゆめみるトランク |
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脇役 |
コロッケが五十二 |
茶色のねこ |
1969 |
まほうをかけられた舌 |
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1976 |
単行本未収録 |
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ふしぎな文房具屋 |
黒猫のミミ |
1982 |
安房直子コレクション |
2 |
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やさしいたんぽぽ |
すてられたねこ |
1985 |
やさしいたんぽぽ |
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