安房直子的世界

童話作家、安房直子さんをめぐるエッセイを書いていきます。

物語の食卓 第二話 グラタンおばあさんのグラタン

このブログは、
アイダミホコさんのブログ
ネムリ堂のブログ
の、童話作家  安房直子さんの作品に登場するお料理をめぐる、安房直子さん生誕80周年のコラボ企画です。
 
安房直子さん(1943~1993)は、日本女子大学在学中、北欧文学者、山室静氏に師事、同人誌『海賊』に参加、「さんしょっ子」で、第3回日本児童文学者協会新人賞を受賞。「きつねの窓」「鳥」「初雪のふる日」などが、小・中学校の教科書に採用されています。初期の幻想的で謎めいた作品から、動物たちが活躍する晩年のあたたかなお話まで、没後30年経った今なお、新しい読者を獲得し続けています。代表的な著作は、偕成社からの選集『安房直子コレクション』全7巻、瑞雲舎『夢の果て』など。
 
豊島区東長崎の雑貨店、Planethandさんの安房直子さん企画展、幻の市でご一緒したご縁で、このコラボ企画は産まれました。 http://planet-hand.com
 
アイダさんに、安房さんのお料理を再現していただき、スタイリッシュでお洒落なお写真におさめていただくという、贅沢な企画です。その写真に、アイダさん、ネムリ堂双方が、思い思いの短い文章をそえたブログを同時公開、今年の秋には小さな冊子にまとめる、という計画をしています。一年間を通して、15の食卓の連載を予定しています。どうぞ、おたのしみに!
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料理・スタイリング・撮影:アイダミホコ

「グラタンおばあさんとまほうのアヒル」は、グラタンがだいすきなおばあさんと、まほうが使える絵皿のアヒルの、ユーモアあふれるコミカルな物語。このお話は、安房さんのご家族がグラタンがお好きで、よくグラタンを作ることから思いつかれたとのこと。母校日本女子大の附属豊明小学校での講演「どうしたらいいお話がかけるかしら」で、そんなエピソードを披露されています。寒い日にアツアツのグラタン。かんがえただけでも、のどがなりますね。「かんがえただけでも、のどがなる」という表現は、他ならぬこの「グラタンおばあさんとまほうのアヒル」に登場します。

 

安房さんの作品には「鳥」が数多く登場し、表題作そのものに鳥の名前を冠しているものも多数あります。「鳥」「鳥にさらわれた娘」「銀のくじゃく」「白いおうむの森」「鶴の家」「エプロンをかけためんどり」「すずめのおくりもの」「うぐいす」…。安房さんは「鳥」を、どちらかといえば、謎めいた神秘的な存在として描くことが多いですが、この「グラタンおばあさんとまほうのアヒル」は、おばあさんのなまけごころに反発して家出をするアヒルの屈託のない冒険譚で、なまけごころを戒める作品として「まほうをかけられた舌」に、テイスト的には近いかもしれません。アヒルは、『イメージ・シンボル事典』(大修館書店)には言及がありませんが、“duck”、「カモ」の象徴的な意味は、気楽さやおしゃべり、がやがやしゃべることを意味するとのこと。一方、ヘブライでは「不死」を表し、「にてもやいても しなないアヒル」に通じてくるともいえます。

 

グラタンが重要な役割をもって登場する作品として、小夜の物語最終話「大きな朴の木」があります。小夜は、北浦のおばさんの作る「西洋料理」グラタンを食べることで、義理の母になるであろう北浦のおばさんを受け入れ、ものをしゃべる木や、小鬼や風の世界――幼年時代――に、別れをつげ、「人間の世界」への第一歩を踏み出すのです。このグラタンは、「とり肉と、栗と、きのこの入ったグラタン」。栗の入ったグラタンというのは食べたことがありませんが、いかにも、ホクホクとほんのり甘く、実においしそうです。きのこと栗という、山の秋の恵みのグラタンですね。

栗の入ったグラタンは、この「グラタンおばあさんとまほうのアヒル」にも出てきて、ほかにも、えびのグラタン、しいたけのグラタン、かにのグラタン、たまごのグラタン、じゃがいものグラタン、マカロニグラタン、とりのグラタン、ほうれんそうのグラタン、きのこのグラタン、たまねぎのグラタン、さかなのグラタン…と、多彩です。さかなのグラタンなんて、塩漬けのイワシだったら、「ヤンソンさんの誘惑」みたいになるのかな、なんて、わくわくします。

 

アイダさんの作られたのは、みどりいろがきれいなほうれんそうのグラタンと、あかいエビとしいたけのグラタン。トロトロのチーズとホワイトソースに、カリカリの焦げ目、アツアツのほうれんそう、えび、しいたけ。ああ、食べたい…。

黄色いチェックのランチョンマットと、黄色いチェックの柄のフォーク!そして、お手製の黄色いアヒルのかわいらしい刺繍!!アヒルはいまにもおしゃべりをしはじめそうで、しつらえも、とても素敵です。

 

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物語の食卓 第一話 りんごのあま煮

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アイダミホコさんのブログ
ネムリ堂のブログ
の、童話作家  安房直子さんの作品に登場するお料理をめぐる、安房直子さん生誕80周年のコラボ企画です。
 
安房直子さん(1943~1993)は、日本女子大学在学中、北欧文学者、山室静氏に師事、同人誌『海賊』に参加、「さんしょっ子」で、第3回日本児童文学者協会新人賞を受賞。「きつねの窓」「鳥」「初雪のふる日」などが、小・中学校の教科書に採用されています。初期の幻想的で謎めいた作品から、動物たちが活躍する晩年のあたたかなお話まで、没後30年経った今なお、新しい読者を獲得し続けています。代表的な著作は、偕成社からの選集『安房直子コレクション』全7巻、瑞雲舎『夢の果て』など。
 
豊島区東長崎の雑貨店、Planethandさんの安房直子さん企画展、幻の市でご一緒したご縁で、このコラボ企画は産まれました。 http://planet-hand.com
 
アイダさんに、安房さんのお料理を再現していただき、スタイリッシュでお洒落なお写真におさめていただくという、贅沢な企画です。その写真に、アイダさん、ネムリ堂双方が、思い思いの短い文章をそえたブログを同時公開、今年の秋には小さな冊子にまとめる、という計画をしています。一年間を通して、15の食卓の連載を予定しています。どうぞ、おたのしみに!!   
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物語の食卓 第一話 は、『ゆきひらの話』2012年(偕成社)より、
「りんごのあま煮」です。

料理・スタイリング・撮影:アイダミホコ

ゆきひらなべは、おなべでありながら、食器でもある、多機能な存在ですね。

安房直子さんの作品には、お鍋や食器がたくさん登場します。おなべは、「コロッケが五十二」や「ふろふき大根のゆうべ」「天の鹿」に出てくる、大きくて黒い鉄のお鍋。「木の葉の魚」には、入れた木の葉が魚料理となるふしぎなおなべが出てきます。「三日月村の黒猫」「火影の夢」「鳥にさらわれた娘」にもおなべが登場します。

食器なら、「鶴の家」の青いふしぎなお皿や、「グラタンおばあさんとまほうのアヒル」の黄色いアヒルの模様のあるグラタン皿、それから、春、秋で、お料理を紹介予定の「ききょうの娘」のふたの内側にすすきの模様のある赤い漆塗のおわん、「白樺のテーブル」のマジョリカ焼きの茶器、「きつねのゆうしょくかい」のコーヒーセット。「ハンカチの上の花畑」のつぼも、酒器として、お仲間にいれてもいいかもしれません。おままごとの食器としては、「きつね山の赤い花」の緑の木の葉の食器も可愛らしいです。

こうしてみると、魔法のかかったなべや食器が自動的にお料理を作ってくれる作品もありますが、「ゆきひらの話」は、ゆきひらが実際にお料理を作り、その本文がそのまま、りんごのあま煮のおいしそうなレシピとなっている箇所も魅力です。

 

「ゆきひらの話」の主人公は、ひとり暮しのおばあさん。安房直子さんの作品には、ひとり暮しのおばあさん、ひとりぽっちのおばあさん、も、よく登場します。「遠い野ばらの村」をはじめ、「小さい金の針」、「秋の音」、「みどりのはしご」、「ふしぎなシャベル」「黄色いスカーフ」etc.etc.…。「グラタンおばあさんとまほうのアヒル」もそうですね。こんな風な、ひとりぽっちのおばあさんというモチーフに出会うと、なんだか、その淋しさ、孤独の深さがしんと響いてきて、心がきゅっとなるような心地になります。

風邪をひいて、ひとり心細い思いで寝込んでいたおばあさんにとって、「ものを言う」ゆきひらの存在はどんなにか心強く、ひんやりおいしいりんごのあま煮は、どんなにか慈しみに満ちた口当たりだったことでしょう。心細い気持ちでいたおばあさんと、戸棚でわすれられていたおなべ。ふたつの波長が重なり合ったからこそ、おばあさんには、その「声」を、聴くことができたのでしょう。

それにしても、アイダミホコさんお料理のりんごのあま煮、実に美しく、おいしそう!! ねっとりした舌触りが思い浮かび、口中に唾がわきます。まっしろな敷物が、雪の中のゆきひらなべを思わせて、とても素敵です。

 

ゆきひらなべの由来についてなど、

アイダミホコさんsideのブログは、こちら↓

 

しか  その他の動物ー安房直子の動物手帖⑧

しか

鹿は、主役級の作品「天の鹿」のインパクト、そして、人気の高い「あるジャム屋の話」があるために、なんだか、すごく、たくさんお話があるような印象がありますが、登場するのは、わずか、8作品、と意外に少ないのです。しかし、「ふしぎなあしおと」以外、どれも、単行本収録済み作品であるという点で、安房さんが、鹿という動物を、特別に思っていたふしがうかがえます。

 

 

タイトル

登場人(動)物

発表年

主な収録作品集

 

 

主人公

天の鹿

牡鹿

1978

安房直子コレクション

5

偕成社

準主人公

野ばらの帽子

鹿の母子

1971

白いおうむの森

 

偕成社文庫

 

あるジャム屋の話

鹿の娘・父鹿

1985

安房直子コレクション

5

偕成社

脇役

あざみ野

長ぐつにする鹿の皮

1975

銀のくじゃく

 

偕成社文庫

 

ふしぎなあしおと

 

1983

単行本未収録

 

 

 

べにばらホテルのお客

風の娘の婚約者の鹿・かもしかの娘

1987

安房直子コレクション

5

偕成社

 

すずをならすのはだれ

 

1990

すずをならすのはだれ

 

PHP

 

ゆめみるトランク

鹿皮のかばん希望の鹿

1991

ゆめみるトランク

 

講談社

 

風になって

鹿の結婚式

1991

安房直子コレクション

7

偕成社

 

「天の鹿」「あるジャム屋の話」「野ばらの帽子」すべて、結婚・婚姻がテーマの異類婚姻譚、ロマンティックな作品ばかりです。

「風になって」にも、鹿が結婚式を行う神聖な場面が出て来ます。

魂の相手と添うことができた半面、人間世界の肉親との永遠の別離を余儀なくされる「天の鹿」は、

かなしみにいろどられた作品でもあります。

「鹿の市」のどこか悲しげな賑わい、その市のなんともいえない魅力、この作品も、エッセイ「きつねと私」に書いていたように、

「狩るものと狩られる者の悲しいかかわりあい」を描いた作品であるのです。

雌の鹿の鳴き声を模した「鹿笛」でおびきだされて狩られる牡鹿。恋の気持そのままに殺された鹿が、そのキモを食べた娘を追い求め、そして結ばれるのは、ある意味、必然であるのかもしれません。

「天の鹿」の7年後に書かれた「あるジャム屋の話」は、

同じ鹿と人間のお話でありながら、安心して読めるハッピーエンドです。

鹿の娘は、さまざまの花を食べ、さまざまの泉の水を飲み、

さまざまの呪文をとなえて、となえ終わった月夜に、人間の姿となります。

同じように、「野ばらの帽子」の鹿の娘は、

魔法をつかえる母鹿に、人間の姿にしてもらうのですが、

「あるジャム屋の話」と違い、娘の恋人は、娘が鹿であることは知りません。

母鹿の連れ合いは、人間に標本にされ、

村の学校の理科室に飾られています。

娘の鹿は、父に会いに通ううちに、

本当なら敵である猟師の男に惹かれるようになります。

「野ばらの帽子」の親子の鹿は、

「鹿は鹿でも、白雪とよばれる高貴な生まれ」なのだといいます。

「あるジャム屋の話」のなかでは、安房さんは

「鹿の知恵は神の知恵」という架空のことわざを登場させます。

 

そんな神聖な獣である鹿たちとは異色なのが、

「ゆめみるトランク」に登場する鹿です。

彼は、死して何も残さないではいたくない、と、

自分の死後、鹿の皮のカバンをつくってくれ、と、

かばん職人の一郎さんにつめよります。

 

 

むし

 

 

タイトル

登場人(動)物

発表年

主な収録作品集

 

 

主人公

かみきりむしのおみせ

かみきりむし

1968

単行本未収録

 

 

準主人公

黄色いちょうちょ

1972

単行本未収録

 

 

 

緑の蝶

緑の蝶

1973

銀のくじゃく

 

偕成社文庫

 

かたつむりのピアノ

かたつむり

1973

単行本未収録

 

 

 

ほたる

ほたる

1974

だれにも見えないベランダ

 

講談社文庫

 

夏の夢

せみ

1977

だれにも見えないベランダ

 

講談社文庫

 

沼のほとり

ほたる

1980

南の島の魔法の話

 

講談社文庫

 

野の果ての国

1980

安房直子コレクション

6

偕成社

脇役

ゆうぐれ山の山男

ハエ・カ・ブヨ

1970

単行本未収録

 

 

 

しゃっくりがとまらない

1974

単行本未収録

 

 

 

海へ

1976

単行本未収録

 

 

 

おしゃべりなカーテン

1987

おしゃべりなカーテン

 

講談社

 

丘の上の小さな家

クモ

1989

安房直子コレクション

4

偕成社

 

 

むしも、それなりに、登場してきます。

「緑の蝶」をはじめ、ちょうちょうが、いちばん多いようです。

また、神秘的なほたるも、2作品に顔をだします。

「夏の夢」のせみも、「耳鳴りを貸す」という不思議な出だしの、

実に印象的なおはなしですね。

 

 

もぐら

 

 

タイトル

登場人(動)物

発表年

主な収録作品集

 

 

主人公

もぐらのほった深い井戸

もぐらのモグ吉

1967

安房直子コレクション

7

偕成社

準主人公

くるみの木の下の家

もぐら

1972

単行本未収録

 

 

 

野いちごつみに

もぐら

1973

単行本未収録

 

 

 

しゃっくりがとまらない

もぐらの一家

1974

単行本未収録

 

 

 

だんまりうさぎとおほしさま

もぐら

1979

だんまりうさぎとおほしさま

 

偕成社

 

だんまりうさぎとペンペン草

もぐら

1981

単行本未収録

 

 

脇役

きいろいマント

もぐらのおばさん

1978

きいろいマント

 

教育研究社

 

もぐらは、イメージ・シンボル事典(大修館書店)によると、「盲目」だけでなく、「貪欲」を表す場合も。中世のイコンでは、「貪欲」Avarice には、もぐらがのっている形で表されます。まさに「もぐらのほった深い井戸」モグ吉そのままですね。

「もぐらのほった深い井戸」の一作が、深い印象を残していますが、もぐらは、

単行本未収録作品にも、動物の主人公への助言役として、

ちょくちょく顔を出していることがわかります。

 

 

さまざまな動物たち

 

タイトル

登場人(動)物

発表年

主な収録作品集

 

 

主人公

オリオン写真館

さる

1968

安房直子コレクション

2

偕成社

 

黄色いちょうちょ

さる

1972

単行本未収録

 

 

 

黄ばらのトゲ

うし

1984

単行本未収録

 

 

 

あきのはまべ

カニの親子

1990

単行本未収録

 

 

準主人公

エプロンが空をとんだ

いのしし

1970

単行本未収録

 

 

 

だれも知らない時間

カメ

1971

安房直子コレクション

1

偕成社

 

かいのでんわ

たこ

1972

単行本未収録

 

 

 

オムレツごちそうさま

さる

1972

単行本未収録

 

 

 

ライラック通りのぼうし屋

ヒツジ

1973

安房直子コレクション

4

偕成社

 

海からの電話

カニ

1976

だれにも見えないベランダ

 

講談社文庫

 

日暮れの海の物語

カメ

1976

安房直子コレクション

6

偕成社

 

奥さまの耳飾り

くじら

1977

安房直子コレクション

6

偕成社

 

やまのくりごはん

りす

1980

単行本未収録

 

 

 

山のローラースケート

いたち

1981

安房直子コレクション

3

偕成社

 

小さなつづら

さる

1982

安房直子コレクション

3

偕成社

 

ふろふき大根のゆうべ

いのしし

1983

安房直子コレクション

3

偕成社

脇役

雪の中の映画館

りすのおくさん

1969

単行本未収録

 

 

 

山男のたてごとⅡ

こうもり・りす・さる・いのしし

1970

単行本未収録

 

 

 

大男のうきぶくろ

くじら

1972

単行本未収録

 

 

 

くるみの木の下の家

りす

1972

単行本未収録

 

 

 

お正月さんこんにちは

おさる

1973

単行本未収録

 

 

 

ほそいつり橋

さる・魚

1973

単行本未収録

 

 

 

たぬきの電話は森の1番

りす

1973

単行本未収録

 

 

 

走れみどりのそり

ぬいぐるみのぶた

1978

単行本未収録

 

 

 

秘密の発電所

カエル

1980

安房直子コレクション

2

偕成社

 

だんまりうさぎと大きなかぼちゃ

りす

1980

だんまりうさぎとおしゃべりうさぎ

 

偕成社

 

マントをきたくまのこ

りす

1981

単行本未収録

 

 

 

ふしぎなあしおと

さる・りす

1982

単行本未収録

 

 

 

はるはもうすぐ

りす

1983

単行本未収録

 

 

 

おしゃべりなカラマツ

りす

1985

単行本未収録

 

 

 

三日月村の黒猫

ボタンづくりをするりす

1986

安房直子コレクション

4

偕成社

 

べにばらホテルのお客

いのしし・りすの一家・いたちの夫婦

1987

安房直子コレクション

5

偕成社

 

わるくちのすきな女の子

くじら

1989

わるくちのすきな女の子

 

ポプラ社

 

すずをならすのはだれ

りす・いのしし

1990

すずをならすのはだれ

 

PHP

 

花豆の煮えるまで

いたち

1991

安房直子コレクション

7

偕成社

 

それ一作で、深い印象を残している作品がたくさんあります。

ライラック通りのぼうし屋」のヒツジ、

三日月村の黒猫」のボタンづくりをするりすたち、

「だれも知らない時間」「日暮れの海の物語」のカメ、

「奥さまの耳飾り」のくじら・・・。

「風のローラースケート」のいたちや、

「ふろふき大根のゆうべ」のいのししも、

安房さんの代表作のひとつです。

 

安房さんの作品をめぐる動物のご紹介は、以上になります。

少しでも、安房さんの作品を皆さんが読み返すきっかけとなりますように。

 

 

たぬきー安房直子の動物手帖⑦

安房作品におけるたぬき。代表作「遠い野ばらの村」「雪窓」の印象が強いのですが、全体的には、あまり作品数が多いわけではありません。

単行本未収録済み作品は、6作品。未収録作品をあわせても、14作品です。

半分以上が単行本未収録作品であり、主人公に採用したものも、すべて単行本未収録です。

 

「月夜のオルガン」は、安房さんが動物を主人公に書いた、記念すべき第一作です。

他の動物がもっと森の奥に引っ越していってしまったのに、音楽がすきで、

学校のオルガンの音から離れがたく、里の近くに住んでいる、たぬきの兄弟の話です。

 

そして、たぬきといったら、なんといっても、「雪窓」の

おでん屋のおやじさんの助手となったたぬきです。

「三角のぷるぷるっとした奴、ください」の、セリフのインパクト!

奥さんを亡くし、娘の美代を亡くして以来、

ひとりぽっちだったおやじさんのこころを、

どんなにか、温めてくれたことでしょうか。

 

そして、身内は遠くに住んでいるけれど、実質ひとりぽっちの

雑貨屋のおばあさんを訪ねて来てくれる、

やさしい幻の孫であるたぬきたちのお話、「遠い野ばらの村」。

たぬきは、やさしく、時にユーモラスに、ひとりぽっちの主人公に寄り添ってくれる存在です。

 

ちょっと毛色のちがうたぬきは、「月夜のテーブルかけ」。

たいそう、もったいぶっており、なんだか生意気です。

でも、お料理の腕は確かで、どこか憎めません。

未収録作品の「どんぐりの林」にも、がめつくて、人づかいが荒いたぬきが登場します。

その、最後にごちそうになるココアは、なんとも美味しそうです。

 

たぬき

 

タイトル

登場人(動)物

発表年

主な収録作品集

 

 

主人公

月夜のオルガン

たぬきの兄弟

1962

単行本未収録

 

 

 

たぬきの電話は森の1番

 

1973

単行本未収録

 

 

 

かたつむりのピアノ

 

1973

単行本未収録

 

 

準主人公

雪窓

 

1972

安房直子コレクション

1

偕成社

 

遠い野ばらの村

こだぬきたち

1979

安房直子コレクション

2

偕成社

 

月夜のテーブルかけ

ゆきのしたホテル経営

1981

安房直子コレクション

3

偕成社

 

どんぐりの林

どんぐりのそろばん屋

1986

単行本未収録

 

 

脇役

ゆうぐれ山の山男

 

1970

単行本未収録

 

 

 

山男のたてごとⅠ

たぬきの親子

1970

単行本未収録

 

 

 

山男のたてごとⅡ

たぬきの親子

1970

単行本未収録

 

 

 

緑のスキップ

たぬきの親子

1972

安房直子コレクション

7

偕成社

 

あざみ野

皮の長ぐつをねだる

1975

銀のくじゃく

 

偕成社文庫

 

タンタラばあさんのしゃぼん玉

たぬきの家族

1981

山のタンタラばあさん

 

小学館

 

ふしぎなあしおと

 

1982

単行本未収録

 

 

 

すずをならすのはだれ

 

1990

すずをならすのはだれ

 

PHP

 

ねこー安房直子の動物手帖⑥

安房作品におけるねこ。ねこは、主人公の相手役、ナビゲーター役となることが多く、逆に、主人公となることは少ないようです。

単行本収録済み作品は、15作品、未収録作品も含めると、22作品となります。

 

ねこは、人間の主人公の良き相棒であったり、異界への導き手だったりします。

一番の印象的な登場をする猫は、

やはり、「三日月村の黒猫」に出てくる、片目の黒猫でしょうか。

片目の黒猫は、倒産寸前の山本洋服店を助け、

さちおを三日月村へと送り出します。

ラストに、朝露のように透明になるようさちおが磨き上げたボタンを、

失くした目の代わりに、ぴたりと嵌め込むあたりも、印象的です。

この三日月村の黒猫と双璧の黒猫が、

「ひぐれのお客」に登場する、エメラルドのような緑色の目をもち、

マントをまとった黒猫です。

このお客は、赤は赤でも、薪ストーブの色をもつ赤の裏地を探しに来たのです。

どちらの黒猫も、洋服関係のお店のお話であることが面白いですね。

黒猫はこの2匹と、「ふしぎな文房具屋」のミミ、

未収録作品「冬の話三つ」「小さな小さなミシン」に登場、

同様に多いのは「まだらのねこ」で、「春の窓」のはちみつ色の目のまだらねこをはじめ、4作品4匹登場します。

まだら、とは、おそらく、茶と黒などが混じった毛の「サビ猫」のことだと思います。

白猫は、「白いおうむの森」のミーや、「猫の結婚式」のチイ子がそうですね。

 

 

「猫の結婚式」には、ギンとチイ子夫妻が

新居を構える予定だという猫の町、

「ふしぎなシャベル」には、猫の村という、

猫だけで集まって暮らしている特別な場所がでてきます。

猫は、通常、人間に飼われているか、

人間世界の傍らで野良ネコとして生きて行くことが普通です。

人間から完全に独立した猫の町・村を、

安房さんは殊更につくりだしてあげたのでしょうね。

 

 

ねこが主人公である作品は、たったふたつ、

いもとようこさんの絵が愛らしい絵本「まほうのあめだめ」

そして、単行本未収録作品「花びら通りの猫」です。

「花びら通りの猫」は、未収録の花びら通りシリーズの1作で、

単行本未収録であるのが、もったいないような作品です。

もっとも、奥さんの役割が、料理と掃除だけ、といわんばかりの

作品の古さがあり、現代のこどもたちに読ませるにはどうなの?と

ジェンダーの点で疑問に思わなくもありません。

ただ、灰色の猫の、コックさんへの苦い失恋のお話は、

ふわりとふしぎな雲でできたばらいろのエプロンとともに、心に残り続けます。

機会がありましたら、こちらもぜひ、読んでみてください。

月刊『MOE』の1981年1月号に掲載の作品です。

 

「ねこじゃらしの野原」というタイトルがふたつありますが、

1980年、『詩とメルヘン』掲載の作品は、

1984年発表のとうふ屋さんのお話シリーズとは

全く別物です。

どちらも、ねこじゃらしの野原が舞台ですが、

1980年『詩とメルヘン』掲載のお話は、おばあさんが、お客のために、近所の農家に買出しに出かける途中、ふしぎな野良猫に出会い、

冬の季節には珍しい、すみれといちごを分けてもらうお話です。

 

対して、「安房直子コレクション」3収録の、とうふ屋さんシリーズは、

昔飼っていた猫のタロウが、「ねこじゃらしとうふ店」を構えていた、

というお話です。

 

安房さんは、こんなにもたくさんの猫の登場するお話を書きましたが、

不思議なことに、犬は、全くと言ってよいほど、出て来ません。

たった1作、「やさしいたんぽぽ」のラストに、

「すてられたいぬやねこ」と、一か所だけ登場するのみです。

自由気ままで、どこかわがまま勝手なところが憎めない猫にくらべ、

人間に忠実で従順な犬に、安房さんは面白みを感じなかったのかもしれません。

 

ねこ

 

タイトル

登場人(動)物

発表年

主な収録作品集

 

 

主人公

まほうのあめだま

チロー

1984

まほうのあめだま

 

金の星社

 

花びら通りの猫

アーモンド型の目、灰色の長い毛

1989

単行本未収録

 

 

準主人公

白いおうむの森

ミー(白)

1973

白いおうむの森

 

偕成社文庫

 

だれにも見えないベランダ

緑色の目の白い猫

1977

安房直子コレクション

2

偕成社

 

ふしぎなシャベル

麦わら帽子をかぶった猫

1978

安房直子コレクション

2

偕成社

 

ひぐれのお客

緑色の目の黒猫

1980

安房直子コレクション

2

偕成社

 

ねこじゃらしの野原

金の目の茶色い大猫

1980

単行本未収録・講談社版とは別

 

 

 

おばあさんとネコとポットカバー

 

1981

単行本未収録

 

 

 

猫の結婚式

ギン(何色かわからない)、チイ子(白)

1981

安房直子コレクション

2

偕成社

 

冬の話三つ②ストーブを買った日

黒猫

1982

単行本未収録

 

 

 

冬の話三つ③手紙

 

1982

単行本未収録

 

 

 

ねこじゃらしの野原

タロウ(金の目の茶猫)

1984

安房直子コレクション

3

偕成社

 

春の窓

はちみつ色の目のまだらの猫

1986

春の窓

 

講談社

 

三日月村の黒猫

片目の黒猫

1986

安房直子コレクション

4

偕成社

 

猫の家のカーテン

まだらのねこ

1987

おしゃべりなカーテン

 

講談社

 

丘の上の小さな家

黄色い目のまだらの猫

1989

安房直子コレクション

4

偕成社

 

小さな小さなミシン

黒猫、月の光がいたずら

1989

単行本未収録

 

 

 

ゆめみるトランク

まだらのねこ

1991

ゆめみるトランク

 

講談社

脇役

コロッケが五十二

茶色のねこ

1969

まほうをかけられた舌

 

フォア文庫

 

小さいティーカップの話

 

1976

単行本未収録

 

 

 

ふしぎな文房具屋

黒猫のミミ

1982

安房直子コレクション

2

偕成社

 

やさしいたんぽぽ

すてられたねこ

1985

やさしいたんぽぽ

 

小峰書店

きつねー安房直子の動物手帖⑤

きつねは、安房作品では、なんだかすごく多く登場するような印象があるのですが、意外に少ないことに驚きます。

単行本未収録済みは、14作品、未収録作品もあわせると、22作品となります。

 

安房さんには「きつねと私」(単行本未収録)というエッセイがあり、きつねという動物に、ほかの動物とはちがう、一種神秘的な感じをいだくようになった、どのきつねも無邪気でかわいらしくて、どこかしら悲しげだった、と書いています。

影絵の悲しげなきつね、宮沢賢治の「雪渡り」のきつね、お母様の銀ぎつねのえりまき眺めながら、いたましい様な思いにかられた事。

「私の作品のきつね達は、(きつねだけでなく、熊でも鹿でもうさぎでも)常に「追われる」動物なのである。そして、追われて狩られる動物と、動物を狩る事で生きてゆく人間との悲しいかかわりあいを描く事が多いのである。」と書く安房さん。

そんな安房直子さんのいちばんの代表作は、やはり「きつねの窓」でしょう。

きつねは、失われたものを映し出すことができるふしぎな指の代償に、「ぼく」の鉄砲をねだります。

主人公の「ぼく」は、なぜひとりぽっちなのか、「ぼく」の家が焼けたのはなぜか。

「きつねの窓」発表当時は、まだまだ第二次世界大戦の爪痕が生々しさを失わなかった頃です。

「ぼく」の家は、戦火で焼け、身内も戦争で失った。そんな時代背景を無視できないと思いつつも、現代の読者には、

そんな当時の肌で感じることのできた記憶を、共有しづらくなっているともいえます。

 

 

そして、やっぱり「ひとりぽっち」のきつね、コンタロウが主人公の「コンタロウのひみつのでんわ」では、

もうひとりの主人公であるふとん屋のおじいさんも、ひとりぽっちです。

ひとりぽっちとひとりぽっちが寄り添い、そっとささやかに温かみをもとめるお話は、

どこか、拭いがたい、しんとしたさみしさにいろどられており、だからこそ一層、わすれがたいお話です。

 

そんなどこかさみしいお話とはうってかわって、ユーモラスでかわいらしい、

「きつねのゆうしょくかい」という作品もあります。

人間をお茶会に招きたくて、お客を招いて、お茶会は大成功なのだけど、

じつはそのお客はみんな、きつねのしっぽをもっていた、というお話です。

 

一方、「きつね山の赤い花」で、きつねの子は、

とくに化けもせず、きつねの姿のまま、

人間の女の子とままごと遊びをします。

「てんぐのくれためんこ」のたけしも、

きつねの子たちがめんこ遊びをしているところに行き会い、

その仲間に混ぜてもらいます。

「べにばらホテルのお客」のホテル経営の片腕として

北村治に尽くすきつねも、とくに人間に化ける必要はなく、

きつねの姿のままで、治と結ばれます。

 

きつねが人間と交流するために、人間の姿に化ける話は、

ほんの初期の頃だけで、

しだいに、人間と動物がおおらかにやりとりする、

そんな風に、作風が変化していっているようです。

そして、どのきつねも、小賢しく人を化かすということはあまりなくて、

「べにばらホテルのお客」のきつねなどは、一途な上、有能です。

(「きつね山の赤い花」のきつねの母さんは、ゆみ子の家のお店であるおとうふ屋から

油揚げをくすねてきてはいるようですが、その程度のかわいいものです。)

 

「わるくちのすきな女の子」にでてくるきつねは、

女の子に馬鹿にされるくらい、気が弱くて、

そして、気持ちのやさしい2匹です。

気の弱い茶色いきつねは、やさしい白いきつねと結婚します。

わるくち鳥となった女の子は、イライラして、

「のろまのだんなさんに ばかのおくさん おお、たいへんだ」

と、歌いますが、

ふくろうは、

「底抜けのおひとよしの上には、幸運の星がついているんだよ。」

と、いいます。

この言葉の、含蓄の深さ。

安房さんの信念のようなものが感じられます。

 

脇役のきつねを見て行くと、

雪の吹雪の中で、きつねうどんの屋台をひいている

きつねの親子が登場する「冬吉と熊のものがたり」があります。

この、きつねうどんのおいしそうなこと!!

おいしそうといえば、「てんぐのくれためんこ」のきつねたちが食べている、てんぷらうどんとぶどうジュースも負けてはいません。

 

「だんまりうさぎと大きなかぼちゃ」の、だんまりうさぎの誕生日パーティには、「きつねのおにいさん」も招待されていますが、きつねはうさぎ、食べてしまいますよね。

ちょっと、心配になってしまいます・・・。

 

きつね

 

タイトル

登場人(動)物

発表年

主な収録作品集

 

 

主人公

きつねのゆうしょくかい

きつねのお父さん・きつねのむすめ

1969

安房直子コレクション

3

偕成社

 

きつねの窓

染物屋

1971

安房直子コレクション

1

偕成社

 

きつねの灰皿

 

1982

単行本未収録

 

 

 

こぎつねコンタロウ

コンタロウ

1982

単行本未収録

 

 

 

コンタロウのひみつのでんわ

コンタロウ

1982

コンタロウのひみつのでんわ

 

秋書房

 

きつね山の赤い花

子ぎつね、かあさんぎつね

1984

安房直子コレクション

3

偕成社

準主人公

雪の中の青い炎

 

1979

単行本未収録

 

 

 

てんぐのくれためんこ

きつねたち

1983

安房直子コレクション

3

偕成社

 

小さな緑のかさ

きつねたち

1985

単行本未収録

 

 

 

べにばらホテルのお客

ホテル経営の片腕のきつね

1987

安房直子コレクション

5

偕成社

脇役

緑のスキップ

きつねの奥さん

1972

安房直子コレクション

7

偕成社

 

ねずみの焼いたおせんべい

 

1973

単行本未収録

 

 

 

銀色の落としもの

 

1973

単行本未収録

 

 

 

ぶどうの風

きつねの奥さん

1973

単行本未収録

 

 

 

冬吉と熊のものがたり

きつねうどんの屋台をひいている

1984

冬吉と熊のものがたり

 

ポプラ社

 

わるくちのすきな女の子

茶色いきつね・白いきつね

1989

わるくちのすきな女の子

 

ポプラ社

 

すずをならすのはだれ

 

1990

すずをならすのはだれ

 

PHP

 

あざみ野

皮の長ぐつをねだるきつね

1975

銀のくじゃく

 

偕成社文庫

 

天の鹿

ぴかぴか光る狐の目玉

1978

安房直子コレクション

5

偕成社

 

だんまりうさぎと大きなかぼちゃ

きつねのおにいさん

1980

だんまりうさぎとおしゃべりうさぎ

 

偕成社

 

ふしぎなあしおと

 

1982

単行本未収録

 

 

 

花豆の煮えるまで

 

1991

安房直子コレクション

7

偕成社

くまー安房直子の動物手帖④

くまの登場する安房直子作品といえば、安房さんの代表作「北風のわすれたハンカチ」や「熊の火」などですね。

くまの登場作品は、単行本収録済みのものは、11作品ですが、未収録作品を含めると、23作品と、倍になります。

 

代表作「北風のわすれたハンカチ」の、ひとりぽっちの月輪熊は、

とうさんもかあさんも弟も妹も、人間にダーンとやられてしまっています。

「きつねの窓」のひとりぽっちのきつねと同じです。

月輪熊は、ひとりぽっちのさびしさをわすれるために、

音楽をならいたいと願っていますが、なかなかうまくいきません。

この月輪熊が、もしかしたら、後の楽器店「ふしぎや」となったのかもしれませんね。

同じように、トランペットが、重要な楽器として登場します。

 

「ふしぎや」というくまの楽器屋が主人公のお話は、

金の星社刊行の「あめのひのトランペット」と「はるかぜのたいこ」の2冊のほか、

小学館の「くまの楽器店」という絵本もあります。

「くまの楽器店」には、

「あめのひのトランペット」が「ふしぎなトランペット」という題で、

「はるかぜのたいこ」が

「さむがりうさぎのすてきなたいこ」という題名で収録されています。

読み比べてみますと、大筋は同じ内容ですが、

細部がすこしずつ、違う作品となっています。

また、「くまの楽器店」には、これまで未収録だった、

「月夜のハーモニカ」「野原のカスタネット」の2編も収録されています。

金の星社の葉祥明さんの絵と、小学館こみねゆらさんの絵では、

作品の印象も随分違います。

また、「北風のわすれたハンカチ」の月輪熊の家には、りっぱなまきストーブがあります。

単行本未収録作品には、「くまのストーブ」という、くまが冬に備えてストーブを買いに行くお話もあれば、

くま自身がストーブ屋として登場する「冬のしたく」という作品もあります。

冬眠する習性のあるくまという動物のために、安房さんは、寒い冬をのりこえるためのストーブを、与えてあげたいと思っていたのかもしれません。

 

くまが、主人公の人間の相手役として登場する作品は2つ、

「熊の火」と「冬吉と熊のものがたり」があります。

「熊の火」は、住処と餌場をうばわれたはなれぐまの父子が、

ふと、幻想のような、山の火口の煙の中にある楽園にたどりつき、

山で迷っていた主人公の男を、その楽園に、

熊の娘の婿として招き入れるというお話です。

煙の中に、春の野山の山菜がふんだんにある楽園があるという

その発想の鮮やかさには、本当に驚かされます。

火口の煙の中と、現世との行き来をするには、

「たばこ」を吸い、そのけむりにつつまれる事で可能となります。

安房さんは、実生活で煙草をすう方ではなかったそうですが、

養父の喜代年さんは、たばこの専売事業を行っていた専売公社に

お勤めでした。

未収録作品「きつねの灰皿」でも、

じつにうまそうにたばこを嗜むシーンがあります。

逃げた夫を追って、山を焼きながら会いにくる熊の娘の心情がそのまま

燃えるようなまんじゅしゃげと化す、鮮やかで、切ない物語です。

 

もうひとつの、くまが重要な相手役である作品、「冬吉と熊のものがたり」には、

緑色の毛糸のマフラーをまいた、「おひとよし」で、実に友好的な熊が登場します。

熊は、冬吉と一緒に、卵の黄身で金色のとろろをすすったり、手作りのビールを飲んだりするけれど、

ビールをしこたま飲んだおかげで、冬吉は眠くなってしまい、あやうく熊に変身するすんでのところで、妻のさちえに助けられます。

「眠り」が、動物への変身の引き金となる作品は、「よもぎが原の風」と同様です。

ここでの熊には、とりたてて悪気があるわけでも、熊に変身させるべく、冬吉を誘惑をしたわけでも、ありません。

ただ、仲良くしたいだけ、という事だからこそ尚更、「自然」のもつ無自覚な暴力性を感じます。

しかし、さちえは、「山はおそろしいところだけれど、やっぱりなつかしい、いいところだ。」と、

山のいろんなもの――熊、きつね、山んば、と知りあいになれたことを、なにより嬉しいと思うのです。

さちえに助けられた冬吉は、右腕だけ、熊の腕となり、並外れた力持ちとなる「ギフト」を、山からもらって帰ります。

 

ほんの脇役としても、くまは多くの作品に登場するのですが、ほとんどが単行本未収録作品で、

単行本収録済みの脇役のお話は、「サンタクロースの星」「すずをならすのはだれ」の二作品だけです。

「サンタクロースの星」に登場するのはただのくまではなく、「しろくま」です。

しろくまの耳の中に、サンタクロースの大事な青い星がさまよいこんでしまったのをつかまえるため、

サンタクロースが青い星をつかむと、しろくまの耳の中にあったくまの夢の世界のカギがかちりと開いてしまいます。

このしろくまの夢のなかの部屋にはだんろがあかあかと燃え、テーブルの上には葡萄酒とギターがあります。

このしろくまも、「北風のわすれたハンカチ」の月輪熊と同様、音楽がすきなのです。

 

耳の中に、大事なものがしまわれている、というモチーフを、安房さんは、「熊の火」でも使っています。

熊のおやじさんは、大事なたばこを木の箱にいれてあり、その箱のカギを、自分の耳の中にしまっているのです。

インドのむかしばなし「ランパンパン」にも、耳の中にしまっていたものをつぎつぎと出していくシーンがありますが、はて?

ほかにも、元になったおはなしはあるのでしょうか?

 

くま

 

タイトル

登場人(動)物

発表年

主な収録作品集

 

 

主人公

北風のわすれたハンカチ

ひとりぽっちの月輪熊

1967

安房直子コレクション

1

偕成社

 

しゃっくりがとまらない

 

1974

単行本未収録

 

 

 

くまのストーブ

 

1978

単行本未収録

 

 

 

あめのひのトランペット(=ふしぎなトランペット)

緑のベレーぼうのくま・ふしぎや

1979

あめのひのトランペット

 

金の星社

 

ふしぎなトランペット(=あめのひのトランペット)

みどりのベレーぼう・ふしぎや

1979

くまの楽器店

 

小学館

 

月夜のハーモニカ

ふしぎや

1979

くまの楽器店

 

小学館

 

野原のカスタネット

 

1979

くまの楽器店

 

小学館

 

はるかぜのたいこ(=さむがりうさぎのすてきなたいこ)

くまのがっきや

1979

はるかぜのたいこ

 

金の星社

 

さむがりうさぎのすてきなたいこ(=はるかぜのたいこ)

くまの楽器店

1979

くまの楽器店

 

小学館

 

マントをきたくまのこ

 

1981

単行本未収録

 

 

準主人公

熊の火

熊のおやじさん、熊のむすめ

1974

安房直子コレクション

5

偕成社

 

冬吉と熊のものがたり

 

1984

冬吉と熊のものがたり

 

ポプラ社

脇役

きのはのおてがみ

 

1968

単行本未収録

 

 

 

雪の中の映画館

 

1969

単行本未収録

 

 

 

ゆうぐれ山の山男

ヒグマ

1970

単行本未収録

 

 

 

山男のたてごとⅡ

1970

単行本未収録

 

 

 

冬のしたく

ストーブ屋

1972

単行本未収録

 

 

 

お正月さんこんにちは

 

1973

単行本未収録

 

 

 

ねずみの焼いたおせんべい

 

1973

単行本未収録

 

 

 

ぶどうの風

くまのおやじさん

1973

単行本未収録

 

 

 

ほそいつり橋

 

1973

単行本未収録

 

 

 

サンタクロースの星

しろくま

1989

サンタクロースの星

 

佼成出版

 

すずをならすのはだれ

 

1990

すずをならすのはだれ

 

PHP