「グラタンおばあさんとまほうのアヒル」は、グラタンがだいすきなおばあさんと、まほうが使える絵皿のアヒルの、ユーモアあふれるコミカルな物語。このお話は、安房さんのご家族がグラタンがお好きで、よくグラタンを作ることから思いつかれたとのこと。母校日本女子大の附属豊明小学校での講演「どうしたらいいお話がかけるかしら」で、そんなエピソードを披露されています。寒い日にアツアツのグラタン。かんがえただけでも、のどがなりますね。「かんがえただけでも、のどがなる」という表現は、他ならぬこの「グラタンおばあさんとまほうのアヒル」に登場します。
安房さんの作品には「鳥」が数多く登場し、表題作そのものに鳥の名前を冠しているものも多数あります。「鳥」「鳥にさらわれた娘」「銀のくじゃく」「白いおうむの森」「鶴の家」「エプロンをかけためんどり」「すずめのおくりもの」「うぐいす」…。安房さんは「鳥」を、どちらかといえば、謎めいた神秘的な存在として描くことが多いですが、この「グラタンおばあさんとまほうのアヒル」は、おばあさんのなまけごころに反発して家出をするアヒルの屈託のない冒険譚で、なまけごころを戒める作品として「まほうをかけられた舌」に、テイスト的には近いかもしれません。アヒルは、『イメージ・シンボル事典』(大修館書店)には言及がありませんが、“duck”、「カモ」の象徴的な意味は、気楽さやおしゃべり、がやがやしゃべることを意味するとのこと。一方、ヘブライでは「不死」を表し、「にてもやいても しなないアヒル」に通じてくるともいえます。
グラタンが重要な役割をもって登場する作品として、小夜の物語最終話「大きな朴の木」があります。小夜は、北浦のおばさんの作る「西洋料理」グラタンを食べることで、義理の母になるであろう北浦のおばさんを受け入れ、ものをしゃべる木や、小鬼や風の世界――幼年時代――に、別れをつげ、「人間の世界」への第一歩を踏み出すのです。このグラタンは、「とり肉と、栗と、きのこの入ったグラタン」。栗の入ったグラタンというのは食べたことがありませんが、いかにも、ホクホクとほんのり甘く、実においしそうです。きのこと栗という、山の秋の恵みのグラタンですね。
栗の入ったグラタンは、この「グラタンおばあさんとまほうのアヒル」にも出てきて、ほかにも、えびのグラタン、しいたけのグラタン、かにのグラタン、たまごのグラタン、じゃがいものグラタン、マカロニグラタン、とりのグラタン、ほうれんそうのグラタン、きのこのグラタン、たまねぎのグラタン、さかなのグラタン…と、多彩です。さかなのグラタンなんて、塩漬けのイワシだったら、「ヤンソンさんの誘惑」みたいになるのかな、なんて、わくわくします。
アイダさんの作られたのは、みどりいろがきれいなほうれんそうのグラタンと、あかいエビとしいたけのグラタン。トロトロのチーズとホワイトソースに、カリカリの焦げ目、アツアツのほうれんそう、えび、しいたけ。ああ、食べたい…。
黄色いチェックのランチョンマットと、黄色いチェックの柄のフォーク!そして、お手製の黄色いアヒルのかわいらしい刺繍!!アヒルはいまにもおしゃべりをしはじめそうで、しつらえも、とても素敵です。
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