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お品書き
つくしの ごまあえ
なのはなの おひたし
あつやきの たまご
たけのこの につけ
ふっくりと たきたての ごはん
やまうどの おみそしる
さくらんぼ 三つ
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春の食卓は、すばらしいあさごはんで幕をあけます。
今回の食卓の食材調達は、私もお手伝いして、地元の我孫子のつくしと、水戸のつくしを提供いたしました。我孫子のつくしがもうスギナになりかけていたので、アイダさんを我孫子にお招きする前日、ちょうど茨城の水戸の友人宅へ遊びにいった帰り、土手沿いにはえていたつくしを摘むことができ、茨城と千葉の季節の違いを感じました。もちろん、我孫子でも、少量ですが、開いていないつくしを採取することができました。つぼみの菜の花と、たけのこのにつけに添えた山椒の葉は、うちの実家の家庭菜園から。お皿にした蕗の葉は、うちの庭から。ちょうど、我孫子の手賀沼でのつくし採りの帰りに、なんと、雉が出現!! なんだか幸先の良いスタートでした。
それにしても、なんて美味しそうな春の食卓でしょうか。つくしの茎のしゃくしゃくした歯ごたえ、みずみずしい菜の花、お出汁たっぷりのたけのこのにつけ、あまいあつやきたまごと、ふっくりたきたての白いごはん、ほろ苦いやまうどのおみそしる。ああ! 食べたい!!
安房作品には、他にも、たまごやきの登場する作品があります。「エプロンをかけためんどり」にでてくる、お砂糖たっぷりのあまーいたまごやき。たけのこの煮ものも、「ききょうの娘」に登場します。
「ねずみのつくったあさごはん」は、絶版になっていて残念なのですが、秋書房から、田中槇子さんの絵で、絵本が刊行されていました。「ねずみのつくったあさごはん」自体は、1980年『こどもの光』掲載の「小さな糸切り歯」という作品の、ねずみの歯を治療し、そのお礼にくつしたを繕ってもらう、というおはなしを、さらにふくらませて、ねずみにあさごはんをごちそうになる後半部分をつけたした作品になっています。
絵の田中槇子さんは、1942年東京生まれ、武蔵野美術大学を卒業されていて、安房直子さんとのコンビでは、『コンタロウのひみつのでんわ』秋書房(1983)、『ふしぎな青いボタン』ひくまの出版(1984)、『空にうかんだエレベーター』あかね書房(1986)、『トランプの中の家』小峰書店(1988)を描かれています。安房さんのお姉さん、谷口紘子さんにうかがったお話では、挿絵として、田中槇子さんの味わい深い絵を、安房さんは大のお気に入りだったそうです。いずれの書籍も、現在では絶版で、入手困難なのが残念です。図書館に所蔵のある場合がありますので、どうぞ、田中槇子さんの絵による安房作品、探してみてください。
「ねずみのつくったあさごはん」は、実は、小学校の教科書に、「ねずみの作った朝ごはん」として、平成4年から平成11年度にかけて、光村図書『国語三下』に収録されていました。ちょうど小学校三年生用の教材だったようです。教科書に載っていた作品を集めた『光村ライブラリー7 つり橋わたれ ほか』に、「ねずみの作った朝ごはん」で、現在も、教科書に載っていたものと同じかたちの作品を読むことができます。「作」「朝」が、漢字なのは、小学生の漢字の学習にあわせたもののようです。秋書房版は、漢数字以外はすべてひらがな表記ですが、光村図書版は、小学三年生が読み書きできる漢字はすべて漢字に直してあるようでした。挿絵は、柳田明子さん。こちらの挿絵の方がなじみ深い読者の方も多いのではないでしょうか。
安房作品は意外に教科書掲載の作品があります。
私自身は、小学生で「きつねの窓」、中学生で「鳥」をならっています。大好きな安房直子さんが国語の授業であつかってもらえるなんて、と、有頂天になったことをおぼえています。また、クラスの男子に、「あんな話つまんねえ!」と言われ、大いに憤慨したことも。
掲載タイトル、教科書、年代は以下の通りです。
・「きつねの窓」
・・・教育出版(小学6年生)昭和52年~令和5年現在まで
・「きつねのまど」
・・・日本書籍(小学5年生)平成4年~13年度
・「初雪のふる日」
・・・光村図書(小学4年生)平成23年~令和5年現在まで
・「つきよに」
・・・学校図書(小学1年生)平成1年~令和5年現在まで
・「鳥」
・・・教育出版(小学6年生)昭和52年~昭和54年度
・・・教育出版(中学1年生)昭和53年~平成4年度
・「青い花」
・・・学校図書(小学6年生)平成12年~16年度
・・・学校図書(中学1年生)昭和59年~61年度
・「たぬきのでんわはもりの1ばん」
・・・東京書籍(小学1年生)昭和52年~54年度
・「はるかぜのたいこ」
・・・東京書籍(小学1年生)昭和61年度~平成3年度
・「秋の風鈴」
・・・東京書籍(小学5年生)昭和61年~平成3年度
・「ひぐれのお客」
・・・大阪書籍(小学6年生)平成1年~13年度
・「やさしいたんぽぽ」
・・・東京書籍(小学2年生)平成4年~7年度
・「すずめのおくりもの」
・・・東京書籍(小学5年生)平成8年~11年度
・「木の葉の魚」
・・・学校図書(中学1年生)平成9年~13年度
・かばんの中にかばんをいれて
・・・大阪書籍(小学5年生)平成17年~平成22年
教師用の指導用教材への掲載作品は省いていますので、実際はもっとたくさんの多彩な安房作品が教育の現場で活躍していたのです。2023年現在でも掲載されているのは、「きつねの窓」「初雪のふる日」「つきよに」の三作品。「かばんの中にかばんをいれて」は、連作集『ゆめみるトランク』の冒頭の作品で、ポプラ社『教科書に出てくるお話5年生』(2006)にも掲載されています。
安房さんは、エッセイ「教材としての「きつねの窓」」で、教科書掲載によって読者が増えたことをよろこびつつも、どうか作品はまるごと読んでほしい、教材として切り刻まれることのないようにと願っている、といったことを書かれています。たしかに、国語教材として、「作者は何をいいたかったのか」「この文章は何をあらわしているのか」と、いった問いばかりがクローズアップされることは、読書の喜びそのものから離れてしまうといえるかもしれません。しかし、国語の教科書ではじめて安房作品に出会う小さな読者たちは確実に存在するわけですから、国語の教科書掲載は、非常に重要な出会いの場であると思います。
最近刊行されたばかりの『日本の文学者18人の肖像【現代作家編】』あすなろ書房(2022)は、小学校高学年向けの児童書ですが、その作家18人のなかに、他ならぬ安房直子さんも選ばれています。喜ばしいことです。
没後、過去の作家として忘れ去られていくことないよう、私も今後、安房直子さんの業績を、どんどん紹介していきたいと思っておりますし、教育の現場でも、安房直子作品がもっともっと取り上げてもらえることを、願ってやみません。
安房作品に登場する山菜についての、アイダミホコさんsideのブログは、こちら↓