安房直子的世界

童話作家、安房直子さんをめぐるエッセイを書いていきます。

うさぎー安房直子の動物手帖①

安房作品にいちばん多く登場する動物、それは、「うさぎ」です。

単行本収録済みの作品は、29作品。単行本未収録作品も合わせると、じつに、52作品にのぼります。

 

主人公として、いちばん多く登場するのは、だんまりうさぎとおしゃべりうさぎのシリーズです。

また、「うさぎ屋のひみつ」の、うさぎの夕食宅配屋も、安房作品のなかでは、めだつキャラクターです。

絶版が残念な「きいろいマント」の主人公も、うさぎの子。

井上洋介さんの挿絵で、お月さまのいろのマントを

母さんうさぎに作ってもらう、すてきなおはなしです。

そして、安房さんがはじめてうさぎを登場人物に、

そして主役として描いたのは、

1966年発表の「しろいしろいえりまきのはなし」になります。

この絵本も絶版ですが、

1962年「月夜のオルガン」でたぬきを登場させた安房さんが、

次に動物を登場させたのが、この「しろいしろいえりまきのはなし」です。

この作品を皮切りに、安房さんは、さまざまなうさぎたちを、

作品にいきいきと描いて行くことになるのです。

主人公扱いのうさぎの作品は、単行本収録済み作品が12作品。

未収録作品を合わせると、19作品です。

だんまりうさぎシリーズは、単行本未収録の作品が3作品もあります。

おしゃべりうさぎにプロポーズすることを決意するところで、

だんまりうさぎシリーズは終わりということになっていますが、

安房さんがご存命だったら、

だんまりうさぎの結婚式、

だんまりうさぎとおしゃべりうさぎの子育て・・・と、

まだまだシリーズがつづいていたのではないかしら??と

残念でなりません。

 

作品の主人公の相手役など、準主人公扱いのうさぎたちは多彩です。

単行本収録済み作品の準主役うさぎ作品は、11作品。未収録作品もあわせると、16作品です。

 

雪の精のような「初雪のふる日」の雪うさぎたち、

「空にうかんだエレベーター」のぬいぐるみのうさぎや

「走れみどりのそり」(未収録)のおもちゃのうさぎのうさ吉など、

動物以外の存在のうさぎも登場します。

 

「うさぎ」は、単純に可愛らしいものとしてだけでなく、

どこか怖い、異界へ主人公をいざなう存在でもあるようです。

よもぎが原の風」のうさぎは、こどもたちと遊びながら、

こどもたちをうさぎに変身させてしまいますし、

「初雪のふる日」の雪うさぎにつれていかれた女の子は、

危うく雪のひとかたまりとなってしまうところでした。

「月へ行くはしご」のミミも、主人公を異界へと導きます。

わたしが、特に気になるのは、

「天の鹿」にほんの少しだけ顔をみせる、

闇夜に穴の中から呪文をかけるといううさぎです。

なんて、薄気味悪く、それでいて

強烈にひきよせられるような

ふしぎな魅力のあるうさぎでしょうか。

そんな存在を、この一作で使い捨てにしてしまう安房さんのいさぎよさ。

半面、呪文をかけるうさぎの話も読みたかったという思いもあります。

 

もちろん、主人公の少女の良き相棒としてのうさぎ、

親切な隣人としてのうさぎもたくさん登場します。

桜の木の下で染物屋を営むうさぎと、うさぎバレエ団が登場する

「うさぎのくれたバレエシューズ」は、

なんて、わくわくするようなお話なんでしょう。

「空にうかんだエレベーター」には、

お母さんが忙しくていつもひとりぽっちの少女の

すてきなお友達であるぬいぐるみのうさぎが出てきます。

同じように、主人公の相棒として、

「ふしぎな青いボタン」のボタン屋のうさぎは、

主人公のあき子と一緒に、熊の家に忍び込み、

スープとお菓子を盗み食いするような冒険をします。

1988年発表の「トランプの中の家」には、

料理人のうさぎが登場しますが、

同じく料理人のうさぎが出てくる「うさぎ屋のひみつ」は、

発表が1985年と、3年前の作品になります。

うさぎ屋の前身が、

「トランプ~」の料理人のような設定にも思えますが、

「トランプ~」の料理人がトランプの中の世界から

恋人のおじょうさんうさぎと駆け落ちのように

人間世界へ抜け出てきたにも関わらず、

うさぎ屋には奥さんにあたる存在が見当たりません。

・・・一体、なにがあったんでしょうね?

 

「紅葉の頃」は小夜のシリーズの中の一作ですが、「山のうさぎ」は小夜と女の子のお話の中にでてくるだけで、

実際には登場しません。この作品を下敷きに、「うさぎ座の夜」が発表されます。

小夜が招待されたうさぎの人形芝居。人間たちの失くした手袋たちが活躍するうさぎたちの人形芝居は、どこか夢の中のようで、

ナンセンスで、面白いのです。紅葉の裏にお手紙を書くのは、山のうさぎ、という設定もすてきですね。

 

タイトルには「うさぎ」とあるのに、作中に姿を見せないという意味で、ふしぎな作品があります。未収録作品の「うさぎの結婚式」です。

主人公のさなえちゃんは、うさぎの花嫁さんのベールをもつという役割でうさぎの結婚式に呼ばれますが、どこまで行っても、うさぎたちの姿は、痕跡のみで、実体を現しはしないのです。

さいごに、さなえちゃんは、だれもいなくなった宴会場で、あまいお酒とお菓子をいただきます。

機会がありましたら、ぜひ閲覧してみてください。

 

これも絶版ですが、サンリオで刊行された幼年童話に「うさぎの学校」という作品もあります。

小学校にあがる前に、小学校に行く練習をしているまり子。野原で、やっぱり同じようにうさぎの学校に行く練習をしているうさぎの子に出会うというお話です。面白いのは、うさぎの学校の授業は「れんげ」に関するものばかりということ。

れんげの花たばをつくる時間、れんげでなわとびのひもをあむ時間、

れんげの花うらないをする時間、れんげのサラダを食べる時間・・・。

そのあと、まり子は、たくさんのうさぎの子たちと、れんげのなわで、なわとびをして遊びます。

そういえば、「よもぎが原の風」のなわとびなわにも、れんげの花の束が混ざっていました。「うさぎの学校」作品中では、「よもぎが原の風」のようにまり子がうさぎに変身させられてしまうような不穏さは一見、影を潜めています。

しかし、ラストシーンで、うさぎの夕飯に招かれたまり子は、「きゅうにこわくなって」いちもくさんに家に帰るのです。

「うさぎの子どもたちにはうさぎのごはんがあるように、まり子にはまり子の家のごはんがあるはずなのでした。」と安房さんは書きます。

最晩年の1990年に書かれた「うさぎの学校」。

安房さんは動物と人間の間に、厳然とした一線をひいて、作品を終えます。

 

うさぎ

 

タイトル

登場人(動)物

発表年

主な収録作品集

 

 

主人公

しろいしろいえりまきのはなし

兄うさぎ・母うさぎ・妹うさぎ

1966

しろいしろいえりまきのはなし

 

小学館

 

ながいながいえりまき

かあさんうさぎ・5匹のこどもうさぎ

1972

単行本未収録

 

 

 

うさぎのシロキチ

シロキチ・シロキチ母

1973

単行本未収録

 

 

 

そらいっぱいのピアノ

ひとりぼっちのうさぎ・うさぎのおんなのこ

1977

単行本未収録

 

 

 

きいろいマント

子うさぎ・母うさぎ

1978

きいろいマント

 

教育研究社

 

だんまりうさぎとおしゃべりうさぎ

だんまりうさぎ・おしゃべりうさぎ

1979

だんまりうさぎとおしゃべりうさぎ

 

偕成社

 

だんまりうさぎとおほしさま

だんまりうさぎ・おしゃべりうさぎ

1979

だんまりうさぎとおほしさま

 

偕成社

 

だいこんばたけのだんまりうさぎ

だんまりうさぎ・おしゃべりうさぎ

1979

だんまりうさぎときいろいかさ

 

偕成社

 

だんまりうさぎと大きなかぼちゃ

だんまりうさぎ・おしゃべりうさぎ

1980

だんまりうさぎとおしゃべりうさぎ

 

偕成社

 

もうすぐ春

子うさぎ・母うさぎ

1980

単行本未収録

 

 

 

だんまりうさぎとペンペン草

だんまりうさぎ

1981

単行本未収録

 

 

 

ゆきのひのだんまりうさぎ

だんまりうさぎ・おしゃべりうさぎ

1983

ゆきのひのだんまりうさぎ

 

偕成社

 

だんまりうさぎの初夢

だんまりうさぎ・おしゃべりうさぎ

1984

単行本未収録

 

 

 

だんまりうさぎのぼうしの秘密

だんまりうさぎ・おしゃべりうさぎ

1984

単行本未収録

 

 

 

だんまりうさぎときいろいかさ

だんまりうさぎ・おしゃべりうさぎ

1984

だんまりうさぎときいろいかさ

 

偕成社

 

だんまりうさぎはおおいそがし

だんまりうさぎ・おしゃべりうさぎ

1984

ゆきのひのだんまりうさぎ

 

偕成社

 

山のむこうのうさぎの町

だんまりうさぎ・おしゃべりうさぎ・うさぎたち

1985

だんまりうさぎとおほしさま

 

偕成社

 

うさぎ屋のひみつ

うさぎ屋

1985

安房直子コレクション

2

偕成社

 

だんまりうさぎはさびしくて

だんまりうさぎ

1986

ゆきのひのだんまりうさぎ

 

偕成社

準主人公

きのはのおてがみ

うさぎの親子

1968

単行本未収録

 

 

 

雪うさぎ

雪うさぎ

1973

単行本未収録

 

 

 

初雪のふる日

雪うさぎたち

1977

安房直子コレクション

7

偕成社

 

うさぎの結婚式

(※作中には姿を見せない)

1978

単行本未収録

 

 

 

走れみどりのそり

おもちゃのうさぎうさ吉

1978

単行本未収録

 

 

 

はるかぜのたいこ(=さむがり~)

さむがりうさぎ

1979

はるかぜのたいこ

 

金の星社

 

さむがりうさぎのすてきなたいこ

さむがりうさぎ

1979

くまの楽器店

 

小学館

 

よもぎが原の風

よもぎが原のうさぎたち

1982

安房直子コレクション

4

偕成社

 

ふしぎな青いボタン

ボタン屋のうさぎ

1984

ふしぎな青いボタン

 

ひくまの出版

 

空にうかんだエレベーター

ぬいぐるみのうさぎ

1986

安房直子コレクション

2

偕成社

 

うさぎのくれたバレエシューズ

染物屋・バレエ団

1987

うさぎのくれたバレエシューズ

 

小峰書店

 

トランプの中の家

料理人のうさぎ・女のうさぎ・うさぎたち

1988

ひぐれのお客

 

福音館

 

月へ行くはしご

ミミ

1990

月へ行くはしご

 

旺文社

 

赤いばらのかさ

うさぎの女の子

1990

単行本未収録

 

 

 

うさぎの学校

子うさぎ

1990

うさぎの学校

 

サンリオ

 

うさぎ座の夜

人形芝居を主催するうさぎたち

1990

安房直子コレクション

7

偕成社

脇役

雪の中の映画館

うさぎ

1969

単行本未収録

 

 

 

ゆうぐれ山の山男

ナキウサギ

1970

単行本未収録

 

 

 

山男のたてごとⅠ

ナキウサギ

1970

単行本未収録

 

 

 

山男のたてごとⅡ

ナキウサギ

1970

単行本未収録

 

 

 

くるみの木の下の家

うさぎの親子

1972

単行本未収録

 

 

 

お正月さんこんにちは

うさぎ

1973

単行本未収録

 

 

 

たぬきの電話は森の1番

うさぎ

1973

単行本未収録

 

 

 

ねずみの焼いたおせんべい

うさぎ

1973

単行本未収録

 

 

 

銀色の落としもの

うさぎ

1973

単行本未収録

 

 

 

ぶどうの風

うさぎの親子

1973

単行本未収録

 

 

 

あざみ野

皮の長ぐつをねだるうさぎ

1975

銀のくじゃく

 

偕成社文庫

 

天の鹿

穴から呪文をかけるうさぎ

1978

安房直子コレクション

5

偕成社

 

山のタンタラばあさん

しもやけのうさぎ

1981

山のタンタラばあさん

 

小学館

 

おしゃべりなカラマツ

うさぎ

1985

単行本未収録

 

 

 

べにばらホテルのお客

赤いビーズの腕輪のうさぎ

1987

安房直子コレクション

5

偕成社

 

すずをならすのはだれ

うさぎ

1990

すずをならすのはだれ

 

PHP

 

紅葉の頃

山のうさぎ

1993

安房直子コレクション

7

偕成社